『日本を喰い尽くすタガメ女の正体』(講談社α新書)

窪田順生の時事日想:
 本日(4月23日)、『日本を喰い尽くすタガメ女の正体』(講談社α新書)という本が発売された。著者は深尾葉子さんという大阪大学大学院経済学研究科准教授で、私も少しお手伝いをした。

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 実はこの本、発売前からすでに一部の人たちの間でかなり話題となっていた。というよりも、かなり物議を醸し出していた。

 以下は、Amazonなどに掲載された「内容紹介」である。

 タガメとは田んぼに生息してカエルの生き血を吸う昆虫。高度成長期以後、日本の各地から田園風景が消える中、タガメの魂は女性たちに宿り、無抵抗な「カエル男」を箍(タガ)にハメて搾取している。すなわち「タガメ女」は「箍女」でもある。気鋭の研究者が、自らの研究過程やゼミ生からの証言をもとに、「専業主婦」「家事手伝い」という姿で女性が現代日本を支配する特異な現象を、ユーモアを交えて実証する。

 なんだか専業主婦にケンカを売っているような内容だな、と思った人も多いのではないか。実際にこれを読んで「搾取? はあ? 専業主婦をナメんじゃないわよ!」とブチギレしている人もいるかもしれない。

 確かに、「虫」呼ばわりされて気持ちのいい人などいない。さらに「内容紹介」でもふれているように、タガメというのはかなりエグい生き物だ。

 まず土のなかに身を潜めて獲物がくるまでじっと待ち、カエルなどの獲物が近くにやってきたらガバッと飛びかかり、鎌状の前脚でガッチリと挟み込む。鋭い注射器のような嘴(くちばし)をプスっと刺す。次に、その嘴からタンパク質を溶かす消化液を注入し、トロトロになって肉をチューチューと吸う。捕食されたカエルは、最初はバタバタともがくもののやがて毒がまわったのか、大人しくなって最期には骨と皮になる――。

●日本は「男の自殺大国」

 そんなエイリアンみたいな捕食をするタガメの姿と、専業主婦を重ねるなんて許せない。こんな本は徹底的にこきおろしてやる、と思う気持ちもよく分かる。

 ただ、個人的にはこのタガメとカエルの関係、深尾さんが言うように「男と女の関係と似ている」ような気がしなくもない。というのも、周囲にいる同世代のサラリーマンを見渡せば、カエルみたいな男があふれているからだ。

 奥さんから財布のヒモをガッチリと握られ、1日の小遣いは500円。結婚当初は家庭という「箍」にハメられるのに抵抗し、バタバタともがいていたが、最近は携帯メールを常に気にしており、みんなで飲んでいても、いつの間にやら帰路についている。

 飲んでもずいぶんグチっぽい。おまけに、えらく達観してきて、「人生なんてそんなものさ」とか「なんだかんだ言ってもサラリーマンはラクだからな」とか口走る。かつて作家の村上龍さんが言ったように、しょせん自分は「消耗品」という悟りに到達しているかのようだ。

 目はうつろで、明らかに20代に比べて思い悩んでいるように見えるのに、口をそろえて「幸せ」だと言う。彼らの首根っこに実は「嘴」が刺さっていて、奥さんからいろんなものをチューチュー吸われていている、と言われても不思議ではない。

 なぜかというと、そんな悟りの境地に達した男たちの末路が、骨と皮だけになったカエルと妙に重なっているからだ。

 例えば、日本は年間3万人近くが自殺をすることから「自殺大国」なんて言われているが、実はこれは正確ではない。

 自殺をしているのは男が圧倒的に多い。過去30年のデータを見ても、女性の自殺者はほとんど横ばいだ。つまり正しくは、日本は男の自殺者だけが増えている「男の自殺大国」なのだ。

●「結婚=幸せ」とされている

 ただ、だからといって、夫から給料を吸い上げる奥さんたちがすべての諸悪の根源かというと、そういう単純な話でもない。

 「ママ友地獄」なんて言葉が最近流行しているように、専業主婦のみなさんはみなさんで、命を削るようなハードなストレス社会の中に身を投じている。かつて言われたように「昼間からゴロゴロ」なんて人は少なく、人間関係や育児で追いつめられ、外で働く夫と負けないほどすり減っている人も少なくない。

 「結婚=幸せ」であるにもかかわらず、どちらも「幸せ」に見えない。ただ、日本社会ではこれが「幸せ」とされている。それを否定すると、なにかのタブーに触れてしまったかのように社会全体で潰しにかかる。なにかこれっておかしくないですか、ということ深尾さんは言っているだけだ。

 「幸せ」とされている手順を踏んでいるはずなのに、なぜこの社会はこんなにも生きづらいのか。もしかしたら、「幸せ」とされていることがまやかしで、システムエラーいよる歪みがあるのではないか。

 そんなことを考察している本なので、本当は「タガメ女」という響きにイラッときた人にこそ読んで欲しい。ま、たぶん無理だろうけれど。


business media参照

こんな事は口が裂けても言えない。
話題になりすぎないことを願うばかりです。


文責:山下